知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.05

クレームに記載された物質についてその量を限定する補正は限定的減縮でないとした判決

知財高裁平成20年2月27日判決 平成19年(行ケ)10055号

特許事務スタッフ

1. 事案の概要
 クレームにリチウム金属が記載されていてもその量について特定されていないのだから、リチウム金属の量を限定する補正は、「発明を特定するために必要な事項」を限定するものでなく、限定的減縮に当たらない。

2. 特許庁における手続きの経緯
 (1)特許出願→拒絶査定→審判請求→手続補正(本件補正)→補正却下・拒絶審決
 本件補正の請求項19を示す。

 【請求項19】二次電池用のアノードを製作する方法であって,
 電気化学システムの中にリチウムを吸着及び脱着することができるホスト材料を設置するステップと,前記ホスト材料の中にリチウム金属を分散するステップと,
 前記ホスト材料とその中に分散された前記リチウム金属とをアノードに形成するステップとを含み,前記アノード内のリチウム金属の量は,前記アノードが再充電される場合,前記アノード内の前記ホスト材料の中に入り込む,前記ホスト材料と合金を作る,又は前記ホスト材料に吸着されるに十分な最大の量以下であることを特徴とする方法(下線は補正部分)。

 (2)審決理由の要点
 補正後の請求項19は、「アノード内のリチウム金属の量」を特定の範囲に限定するものであるが、補正前請求項19に係る発明は方法の発明であって、「アノード内のリチウム金属の量」を発明特定事項として含むものではないから、補正は、特許法17条の2第4項2号に掲げる事項を目的とするものではないし、同項の他の各号に掲げる事項のいずれを目的とするものともいえない。

3.原告主張の審決取消事由
 審決は、本件補正の適否の判断を誤った。
 本願発明19は,方法に係る発明であっても,その外延を明らかとするために,「アノード内のリチウム金属の量」を特定の範囲に限定している。物の発明か,方法の発明かを問わず,アノード内の「リチウム金属」に関する言及がある場合には,その量に関する事項は,アノード内の「リチウム金属」という概念に内在する特定事項であり,本願発明19の特定事項として,「アノード内のリチウム金属の量」が含まれており,本件補正は,この特定事項を限定するものであるから,限定的減縮に相当する。

4. 判決理由の要点
 「リチウム金属」という記載では,物質の種類を特定したにすぎず,その「量」については,何らの言及がないのであるから,「(アノード内の)リチウム金属」なる記載が「リチウム金属の量」についての特定を含むものではないことは一般的な用語法に照らして明らかであり、原告の主張を採用することはできない。
 そうすると、本願発明19の特定事項として,「アノード内のリチウム金属の量」が含まれていない以上,本件補正は,発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
 本件補正は,特許法17条の2第4項2号の事項を目的とするものとはいえず,本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。

5.検討
 本判決の考え方は、補正前クレームに物質の量は特定されていない→物質の量は発明特定事項でない→物質の量を限定する本件補正は発明特定事項を限定するものでない、というものです。
 補正の審査基準の限定的減縮に関する事例9に類似の事例が示されている(下記参照)。

 補正前クレーム:化合物Aと化合物Bを反応させる化合物Cの製造方法。

 補正後クレーム:化合物Aと化合物Bを80℃以上で反応させる化合物Cの製造方法。

 〔結論〕限定的減縮に該当しない。

 〔解説〕この補正は、補正前の請求項に記載された発明の特定事項、すなわち、課題解決手段のいずれの事項の限定でもない。

 本判決は、発明特定事項の限定について、知財高裁が審査基準と同様な判断を示した事例といえる。

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