知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.07

いわゆる「除くクレーム」とする訂正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」することができるとした判決

知財高裁平成20年5月20日判決 平成18年(行ケ)10563号

特許事務スタッフ

1. 事案の概要
 特許権者は、特許法29条の2を理由とする特許無効審決に対し、先願発明との重複部分を除いた「成分(A)〜(D)を含有してなる感光性熱硬化性樹脂組成物。ただし、(A)『・・・』と(B)『・・・』とC『・・・』とD『・・・』である多官能エポキシ樹脂(TEPIC:日産化学(株)製、登録商標)とを含有してなる感光性熱硬化性樹脂組成物を除く。」という除くクレームに訂正する訂正審判を請求したところ、特許庁は「訂正を認める。特許無効審判の請求は成り立たない。」と審決した。本件は無効審判請求人がその取消を求めた訴訟である。

2. 原告(無効審判請求人)の審決取消事由
 (1)除くクレームによる訂正は、平成6年改正前特許法134条2項ただし書きにいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正といえない。除くクレームに関する審査基準は特許法に反するものであり、本来認められるものでない。仮に例外として認められとしても、本件訂正は、審査基準が定めた要件に適合していないから、「当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取り扱う」場合に該当しない。
 (2)登録商標「TEPIC」を付された樹脂には複数の種類が含まれ、単一の樹脂を意味しないから、登録商標「TEPIC」の記載によって除くクレームの内容を技術的に特定できない。除くクレームによって特許請求の範囲から除外されたものと、除外されずに本件発明に属するものとの区別が明瞭であるといえないから、訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

3. 判決理由の要点
 (1)除くクレームについて
 判決は、訂正の要件として、特許法が定める「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」について、一般的な判断基準を示した。
 「『明細書又は図面に記載した事項』とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。」
 その上で,次のように判示して,発明のうち,先願発明と同一である部分を,「除くクレーム」によって除外する訂正を請求する場合についても,上記の一般的な判断基準が適用されることを明らかにした。
 「特許権者は,特許出願時において先願発明の存在を認識していないから,当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書が適用されることに変わりはなく,このような訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものである限り『明細書又は図面に記載した事, 項の範囲内において』する訂正である。」
 本判決は,以上のような解釈に基づいて,本件訂正は特許法に適合すると判断した。
 「引用発明の内容となっている特定の組み合わせを除外することによって、本件明細書に記載された訂正前の発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから、本件訂正が本件明細書に開示された技術事項に新たな技術事項を付加したものでないことは明らかであり、・・・願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものである。
 審査基準は「除くクレーム」について,「例外的に」明細書等に記載した事項の範囲内においてするものと取り扱うとしているが,以下のような認識を示して,このような考え方は適切ではないと判示している。
 「『除くクレーム』とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,・・・補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない。したがって、『除くクレーム』とする補正についても、・・・細書等に記載された技術的事項との関係において、補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきところであり、『例外的な』取り扱いをする余地は無いから、審査基準の除くクレームに関する記載は、上記の限度において特許法の解釈と適合しない」

(2)登録商標の使用
 本件訂正は,先願発明と同一であるとして特許が無効とされることを回避するために,先願発明と同一の部分を除外する訂正であるから,本件訂正における「TEPIC」は,先願明細書に記載された「TEPIC」を指すものであると認められる。そして,本件訂正における「TEPIC」は,先願明細書に基づく特許出願時において「TEPIC」の登録商標によって特定されるすべての製品を含むものであるということができるから,その限度において,「TEPIC」との登録商標によって特定された物が技術的に明確でないとはいえない。
 本件訂正は、・・・消極的な表現形式(いわゆる『除くクレーム』の形式)によって特定しているものであり,引用発明と同一の部分を過不足なく除外するためには,このような方法によるほかないと考えられることから,引用発明を特定する要素となっている「TEPIC」との商標の記載を使用して除外部分を表示したことが,平成2年改正前特許法施行規則24条様式16(登録商標は,当該登録商標を使用しなければ当該物を表示することができない場合に限り使用し,この場合は,登録商標である旨を記載する。)に反するものということはできない。

4. 検討
 本判決は、除くクレームを使用する訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものである限り『明細書又は図面に記載した事, 項の範囲内において』する訂正であり、認められると判示した。また本判決は、「○○を除く」の○○が明細書又は図面に記載されていないからといって補正により新たな技術事項が導入されるという性質のものでないと判示した。
 本判決は、除くクレームによる補正を例外扱いとした審査基準を否定したが、それはあくまでも新規事項の判断についてである。従って、本判決は、除くクレームが記載不備(特許法36条違反)にならないと保障したわけではない。審査基準には、特許法36条6項2号違反の類型の一つとして、範囲を曖昧にする表現を挙げており、『否定的表現「〜を除く」、「〜でない」がある結果、発明の範囲が不明確となる場合』と記載している。本判決は、この審査基準を否定したものでないことに注意すべきである。
 また、本判決は、明細書中における登録商標の記載を制限した特許法施行規則24条(現行法では様式29備考9)について判断した珍しい事例である。

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