知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.20

必須の構成要件を削除する補正は新規事項であると判断した判決

知財高裁平成21年10月28日判決 平成21年(行ケ)10049号

特許事務スタッフ

1.本件の経緯
 原出願→分割出願→特許登録→特許無効審判請求→審決(特許無効)→審決取消訴訟提起→本判決(請求棄却)

2.本件発明
(1)原出願の当初明細書等(特開2004−105863号)
【請求項1】(符号は筆者記入)
所定間隔をあけて配された左右の固定側壁9と、固定側壁の前後部下部に渡し止められた前後の支持軸10と、支持軸に前後揺動開閉自在に設けられた前後の揺動側壁11と、左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材12と、固定側壁に回転自在に渡された、回転刃23、24を有する回転軸17と、前の揺動側壁の内側に設けられた回転刃との協働により被処理物を細断する固定刃32と、後の揺動側壁の内側に設けられたスクレーパー38とを有し、固定刃とスクレーパーとの間に回転刃が位置するようになされている細断機。
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性合成樹脂製品の成形に伴って発生する副産物(スプル・ランナ等)を再利用可能な細断片に細断するのに好適な細断機に関する。
【発明の目的】本発明は、メンテナンスが行ないやすく、且つ、部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とする。
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、前後の揺動側壁が開くので、メンテナンスが行ないやすい。また、2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので、細断機の剛性を大きくすることが出来る。更に、2本の支持軸が、揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので、部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。

特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

(2)分割出願に係る特許発明(特許3966892号)
【請求項1】(符号は筆者記入)
所定間隔をあけて配された1対の固定側壁9と、両固定側壁に回転自在に渡され、回転刃を有する回転軸17と、該回転軸と平行に、両固定側壁の下側両端部に渡し止められた1対の支持軸10と、該支持軸夫々に揺動開閉自在に設けられた揺動側壁11と、一方の揺動側壁の内側に設けられ、前記回転刃との協働により被処理物を細断する固定刃32と、他方の揺動側壁の内側に設けられたスクレーパー38とを有し、前記固定刃とスクレーパーとの間に前記回転刃が位置するようになされ、前記回転刃は、アーム状の粗切断用回転刃23と外周に鋸歯状の細断歯を有する細切断用回転刃24を有し、前記固定刃及びスクレーパーの下方に位置するようにして前記粗切断用回転刃の移動軌跡空間を囲う覆い部材40が設けられ、前記覆い部材は、前記一方の揺動側壁に設けられた第1側部材40aと、前記他方の揺動側壁に設けられた第2側部材40bと、前記第1側部材と第2側部材とを繋ぎ、前記第1側部材及び第2側部材とは別体であって、着脱自在となされた中間部材40cとを有することを特徴とする細断機。

3.審決理由の要点(無効2008−800093号)
 本件分割出願は,本件原出願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)との記載部分が,本件原出願明細書の特許請求の範囲の記載から削除されたことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することになるから,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たさない。

4.原告主張の審決取り消し理由
 「本件連結材」の技術的意義に係る審決の認定判断は,誤りである。 「本件連結材」は,細断機作動時において,格別の技術的意義を有していない。
 当業者であれば,細断機の作動時には,被処理物を細断する際の細断荷重が固定刃を介して揺動側壁に作用するため,細断荷重に対する揺動側壁の剛性が,細断機の剛性として重要であると理解する。また,当業者であれば,本件原出願明細書の段落【0016】,【図8】等の記載により,固定側壁と揺動側壁とをロック装置46により固定して一体化させて初めて細断機を作動させることができ,細断機の作動に必要な剛性を得ることができると理解する。そうすると,作動時については,「本件連結材」が存在していなくても,揺動側壁を固定側壁にロック装置46により固定して一体化させていさえすれば,細断機の作動に必要な剛性を得ることができるといえるから,「本件連結材」は,細断機の機能発揮上不可欠な技術的意義を有するものではない。
 本件原出願明細書の【発明の効果】の記載は,揺動側壁と固定側壁とを一体化した状態にして細断機に必要な剛性を確保した上で,さらに剛性を大きくすることができることを述べたものにすぎない。

5.判決理由の要点(下線は筆者記入)
本件原出願明細書には,発明の目的を「メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供すること」とし,具体的には「前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。」,また,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」,更に,「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」発明が記載,開示されている。
 そうすると,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない。
 したがって,本件原出願明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。

6.検討
 クレームA+Bから構成要件Bを削除してAのみを残す補正は、構成要件Bを削除するだけだから、一見すると新たな技術的事項を導入しないように見える。しかし、本判決は、分割出願に係る発明は、発明の課題解決に不可欠の構成要件を削除しているので、新たな技術的意義を実質的に追加したことになり、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものでなく、分割出願の要件を満たしていないと判断している。
 ここで、構成要件を削除することにより追加された技術的意義とは一体何なのか。それは、細断機の剛性を大きくするという発明の課題は、本件連結材がなくても解決できるということになる。本件連結材を備えないで上記課題を解決できる発明は、原出願当初明細書に全く記載されていないのだから、本件連結材を削除する補正は新規事項になる。
 本判決は、分割出願に係る発明について判断しているが、通常の補正・訂正についても当てはまる判断であるので、補正をする場合は、発明に必須の構成要件を削除しないよう注意する必要がある。

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