知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.16

特許法2条3項1号の「譲渡の申し出」に該当する行為について判断した判決

知財高裁平成21年11月26日判決 平成20年(ワ)9742号

特許事務スタッフ

1.事実関係及び関係法規
原告は記録媒体の駆動用モータに関する日本特許の所有者であり、被告の行為が譲渡の申し出に該当するとして、特許権の侵害差止請求及び損害賠償請求(弁護士費用のみ)を提起した。
被告は韓国に本社を有する外国法人であり、日本に子会社を有しない。被告は、日本で閲覧可能な被告のウェブサイトに自社製モータを掲載していた。
民事訴訟法5条:次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起できる。(1〜8号省略)
9号 不法行為に関する訴え

2.争点
(1)我国における被告物件の譲渡の申し出の事実があるか。
(2)我国に裁判管轄があるか。

3.裁判所の判断(下線は筆者記入)
(1)裁判管轄の基準となる判決の提示
民訴法5条9号の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証明されることを要する(最高裁判所平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)から、我が国において損害が発生したことが証明されるのみでは足りず,日本国特許権である本件特許権の侵害事実としての,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要がある。

(2)譲渡の申し出の事実に関する判断
イ)被告ウェブサイト(英語表記)について
「Slim ODD Motor」を紹介するウェブページが存在し,同ページの「Part Number List」という項目を選択すると,別のページが表示され,被告物件の一つである「DMBSFC06M」の品番が掲載されている。また、「Slim ODD Motor」欄の「Sales Inquiry」(販売問合せ)として,「Japan」(日本)も掲げられており,「Sales Headquarter」として,日本での拠点(東京都港区)が示されている。
ロ)被告ウェブサイト(日本語表記)について
「Slim ODDMotor」を紹介するウェブページの「購買に関するお問合せ」という項目を選択すると,販売に係る問合せフォームが表示され,「製品に関するお問合せ」という項目を選択すると,「Slim ODD Motor」の製品に係る問合せフォームが表示される。また,同サイトにおいて,日本における販売法人として東京と大阪の拠点が掲載されている。
ハ)英語表記のウェブサイトは,被告の製造する製品の一つとして,「Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり,日本語で表記された「Slim ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフォームについても,プルダウンの選択次第で様々な製品に変更ができるものであり,品番や具体的な仕様についても何ら示されていない。そうであるから,同フォームが表示されていることをもって,被告物件につき譲渡の申出があったとは認められない。
被告物件のうち一部の品番(DMBSFC06M)が掲載されているページも存在したが,英語で表記されていることに加え,当該品番のモータの定格電流,定格電圧,騒音及び振動が示されているにすぎず,同モータの他の具体的な仕様については何ら示されていないのであり,また問合せフォームにもリンクしていないのであるから,当該品番のモータの一般的な紹介にとどまるというべきであり,同モータについて,我が国において譲渡の申出があったとは認められない。

(3)裁判管轄に関する判断
損害賠償請求については、被告が我が国において特許権侵害行為をし,同行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたものとはいえないから,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍を認めることはできない。
我が国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,認定事実からは,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的なおそれがあると推認することもできない。 よって,特許権侵害の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定することはできない。

4.検討
 本判決は、どのような行為が特許法2条3項1号で規定する「譲渡等の申し出」に該当するかについて、裁判所が初めて判断した件である。
被告のウェブサイトには、被告製モータの品番及び日本における販売拠点が掲載され、「購買に関するお問合せ」及び「製品に関するお問合せ」の項目も設けられていた。しかし、裁判所は、これらの行為は被告製モータの一般的紹介に止まるものであって、譲渡の申し出に該当しないと判断した。その理由は、モータの品番が掲載されていても、その具体的な仕様が示されておらず、問い合わせフォームにもリンクしていないからである。
ウェブサイトに製品の品番及び日本における販売拠点が明示されていたのであるから、その販売拠点に特定の品番のモータの具体的仕様を問い合わせることは、電話や訪問等の他の方法により可能であったと思われるが、当事者間で議論されていない。
判決理由からすると、「譲渡等の申し出」と言い得るためのハ−ドルはかなり高いと思われる。原告が、損害賠償額として弁護士費用のみを請求したのは、譲渡の申し出という行為だけでは財産的損失が生じていないからであろう。

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