知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.04

物の発明を方法の発明に変更する補正は、平成18年改正前特許法17条の2第4項各号に該当せず、認められないとした判決

知財高裁平成19年9月20日判決 平成18年(行ケ)10494号

特許事務スタッフ

1. 事案の概要
 プロダクト・バイ・プロセス・クレームで書かれた発明のカテゴリーを方法の発明に変更する手続補正は、特許法17条の2第4項各号(平成18年改正前)に該当しない。

2.特許庁における手続の経緯
 原告は、「ホログラフィック・グレーティング」なる発明を特許出願したが、拒絶査定を受けたため、審判を請求するとともに、「ホログラフィック・グレーティング製作方法」と発明のカテゴリーを変更する手続補正書を提出した。
 特許庁は、手続補正書を却下した上で「本件審判の請求は、成り立たない。」と審決した。
 (1)補正前(拒絶査定時)の請求項
 【請求項1】光学ガラス基板上に設けたホトレジスト層に,所望の回折格子溝深さ以上の溝深さを有するレジストパターンをホログラフィック露光法により刻線し,該レジストパターンが完全に消失するまでレジストに対するエッチング速度が基板に対するそれより大きくなるように調整したフッ素系ガスと酸素との混合ガスから生成されるイオンビームによりエッチングすることにより,光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線してなるホログラフィック・グレーティング。

 (2)補正後の請求項
 【請求項1】光学ガラス基板上に設けたホトレジスト層に,所望の回折格子溝深さ以上の溝深さを有するレジストパターンをホログラフィック露光法により刻線し,該レジストパターンが完全に消失するまでレジストに対してエッチングし,該光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線するホログラフィック・グレーティング製作方法において,

 (a)該ホトレジスト層に対するエッチング速度が該ガラス基板に対する速度より大きくなるようにフッ素系ガスと酸素との混合ガスを調整し,

 (b)該レジストパターンの刻線方向に対して垂直で且つ基板の法線方向に対して傾斜した方向から,該混合ガスから生成されるイオンビームを照射することでエッチングし,

 (c)エッチングする際には,該混合ガス中の酸素が該ホトレジスト層から析出するカーボンと反応し,該レジストの表面から離脱するようにした,ことを特徴とするホログラフィック・グレーティング製作方法。

(3)審決理由の要点
 本件補正前は発明のカテゴリーが物であったのに,本件補正後は発明のカテゴリーが方法になっており,特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーを変更する補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

3. 原告主張の審決取消事由
 (1)補正前発明1の実質的なカテゴリーは「方法」である。
 補正前請求項1は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームであり,補正前請求項1に記載された物が出願に係る明細書において当該請求項に記載された製法によって製造された物に限られるから,当該物は請求項に記載された製法によって限定される,すなわち,当該請求項の実質的なカテゴリーが「方法」であると解釈されるべきである。審決が請求項の末尾の文言のみによって発明のカテゴリーを「物」であると認定し,本件補正が不適法であるとした判断は誤りである。

 (2)補正は特許法17条の2第4項の制度趣旨により許容される範囲内である。
 特許法17条の2第4項の規定は,迅速な権利付与を確保するために,最後の拒絶理由通知に対する補正は,既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行うこととする趣旨で設けられたものであるところ,補正前発明1について,被告は先行技術として回折格子の製作方法に関する発明のみを列挙し,発明特定事項が「ホログラフィック・グレーティングの製造方法」に関するものであることを認識していたから,本件補正は,既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行われたものである。審査結果を有効に活用できる範囲内ならば形式的なカテゴリーの変更は許容される。

4. 判決理由の要点
 (1) 特許請求の範囲の記載は,出願人が「物の発明」と「方法の発明」とで法律効果が異なることを考慮して,いかなる権利を請求するかを選択し,その選択の結果を記載したものであるから,特許出願に係る発明が「物の発明」と「方法の発明」のいずれであるかの区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきである(最高裁平成10年(オ)604号平成11年7月16日判決・民集53巻6号957号)。特許請求の範囲の記載に基づき補正前発明1を「物の発明」と認定した審決に誤りはない。

 (2) プロダクト・バイ・プロセス・クレームにあっては,特許請求の範囲に物の製造方法(プロセス)が記載されていても,その記載は発明の対象となる物(プロダクト)を特定するためであり,物の製造方法についての特許を請求するものではない。したがって,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれた発明のカテゴリーは,あくまで「物の発明」であって,「方法の発明」ではない。

 (3)本件補正は,「物の発明」であった補正前請求項1を「方法の発明」である補正後請求項に補正することを目的としている。発明のカテゴリーによって,法律効果が異なるから,発明のカテゴリーを「物の発明」から「方法の発明」に変更することは,「物の発明」として請求していた権利とは異なる効果を有する別の権利を請求することにほかならない。したがって,本件補正は,特許請求の範囲を変更するものであり,特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない。

5. 検討
 特許法17条の2第4項は、発明のカテゴリーを変更することを禁止する旨規定していない。また、発明のカテゴリーを変更することは、既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内に補正を制限する制度趣旨に反するとは限らない。にもかかわらず、カテゴリーの変更を認めなかった本判決の判断は厳しい。実務家としては、この判決を受けて、最後の拒絶理由を受けた後は発明のカテゴリーを変更しないようにするしかない。

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