知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.02

引用発明において、本願発明のように構成する必要がないので、そのような構成を引用発明に適用することは設計変更といえないとした事例

知財高裁平成19年7月19日判決 平成18年(行ケ)10339号

特許事務スタッフ

(1) 本願発明
【請求項1】 サイドプレート14に回転可能に支持された巻取パイプ16の内部にスプリング20を収容し、スプリングの蓄勢力によって巻取パイプにスクリーン18を巻き取るようにし、スクリーン巻取り最終段階前から巻取パイプに内蔵したブレーキ22によってスクリーンの巻取速度を減速し、スクリーン巻取最終段階において、さらに巻取速度を減速する一方で、ブレーキによってスクリーンを巻取り不能にはせずに、スクリーンをブレーキ以外によって停止させて巻き取りパイプに完全に巻き取るようにしたことを特徴とするロールスクリーン。

【発明が解決しようとする課題】ブレーキを備えたロールスクリーンでは、巻取り始めを除き巻取時に油圧ダンパが常に作動するため、スクリーン巻取速度は減速されるが、巻取りの最終段階においては、スクリーンの巻径が大きくなり、スクリーンの荷重も減るため、巻取速度が抑えきれず、完全に巻取ったときにウエイトバーによる衝撃音が発生し、衝撃力が過大になる。

【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の形態のロールスクリーンを示しており、ロールスクリーン10は、窓枠等に固定されるセットフレーム12に取り付けられる一対のサイドプレート14によって両端を回転可能に支持された巻取パイプ16と、これに一端が連結され吊り下げられるスクリーン18と、その下端に取り付けられたウエイトバー17とを備えている。
巻取パイプ16内にはコイルスプリング20が収容されており、その一端はサイドプレート14に間接的に固定され、その他端は第1ブレーキ22を介して巻取パイプ16に固定される。巻取パイプ16内には、スクリーン18を所望の位置で停止させるストッパー装置24が設けられ、さらに、スクリーン巻取り最終段階からスクリーン巻取速度を減速するための第2ブレーキ26が設けられる。
巻取パイプ16がスクリーン巻解き方向に回転されると、コイルスプリング20の他端が巻取パイプ16と一体に回転して蓄勢される。
スクリーン18を巻き取るときには、ストッパー装置24を解除して、コイルスプリング20の蓄勢力によって巻取パイプ16を巻取方向へ回転させて、スクリーン18を巻き取っていく。このとき、第1ブレーキ22によって巻取パイプ16の巻取速度は減速される。巻取りの最終段階において第2ブレーキ26が作動する。


【図1】

特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

(2) 引用例の記載事項
(イ)「本考案は,主としてロールスクリーンの巻上げに際し,巻終わり間近におけるスクリーンの巻取筒の加速を抑圧し,スクリーンをほぼ一定の速度で終始一貫して静粛且つ円滑に巻取ることができるようにしたロールスクリーンの巻上げ制動装置に関するものである。」
(ロ)「本考案は,第7図に示すように,スクリーンSの巻取筒Pの長手方向端部に内装されるものであり,巻取筒Pの他端には,巻取筒Pを,自身に内装したスプリングRの弾発復元力にて回転させてスクリーンSを巻取り,また引下ろしたスクリーンSをロックする周知のクラッチ・ねじり機構Dが配設されている。」
(ハ)「シリンダ筒16内には,粘度の大きいオイル,グリース等の粘性体22が充填されるものであり,シリンダ筒16,トップカバー1,エンドカバー2,トップシャフト4,オイルシール5,制動シャフト6,エンドシャフト8,制動翼13,回転翼18,粘性体22等によって,いわゆる粘性ダンパ23が形成される。」
(ニ)「回転が抑止された制動シャフト6,制動翼13に対して,シリンダ筒16,回転翼18,トップカバー1,エンドカバー2等は,スクリーンSを巻上げるべく回転している巻取筒Pに従動して継続的に回転するため,回転翼18は,制動翼13が障壁となっている粘度の大きい粘性体22中を回転することになり,制動翼13によって移動を規制されている粘性体22の粘性抵抗,摩擦抵抗により一定の制動力を受け,制動力はシリンダ筒16,トップカバー1,エンドカバー2から巻取筒Pへと伝達され,巻取筒Pの回転、スクリーンSの巻上げを制動するものである。」
(ホ)「粘性ダンパ23は,スクリーンSの巻終わりに向かって加速される巻取筒Pに対してブレーキとして作用するのであり,スクリーンSの急速な巻上げに起因する巻終わりの衝撃力や騒音等の発生を防止し各部材の損傷や静粛な雰囲気,情緒の破壊を防ぎ,スクリーンSの静粛且つ緩調な巻上げを可能とするのである。」
(ヘ)第7図には,スクリーンSの巻取筒Pを回転可能に支持するブラケットBが開示されている。


特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所
特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

(3) 審決の要点(下線は筆者記入)
(結論)本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(理由)引用例1には引用発明「ブラケットBに回転可能に支持された巻取筒Pの内部にスプリングRを収容し,スプリングRの蓄勢力によって巻取筒PにスクリーンSを巻取るようにし,スクリーン巻取り初期段階から巻取筒Pに内蔵した粘性ダンパ23によって,巻取筒Pの加速を抑圧し,ほぼ一定の巻取り速度となるように制動するようにしたロールスクリーンの巻上げ制動装置」が記載されている。
本願発明に対して,引用発明は,スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速しているのか明らかではない点で相違する。
引用発明のロールスクリーンの巻上げ制動装置の粘性ダンパは,「巻終わり間近におけるスクリーンの巻取筒の加速を抑圧し,スクリーンをほぼ一定の速度で終始一貫して静粛且つ円滑に巻取ることができるようにする」((イ)参照)である事,および「粘性ダンパ23は,スクリーンSの巻終わりに向かって加速される巻取筒Pに対してブレーキとして作用する」((ホ)参照)事を鑑みれば,スクリーン巻取り初期段階から最終段階までの間,一貫して巻取筒の加速を抑圧するように減速させる事によって,ほぼ一定の巻取速度でのスクリーンの巻取りを実現するものと解する事ができる。
してみれば,スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキを用いた場合,スクリーン巻取り最終段階で所望の減速特性が得られるようにするために,スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにすべき事は,当業者が必要に応じて適宜採用することができる設計的事項である。

(4) 判決の要点
(結論)審決を取消す。

(理由)スクリーン巻取り最終段階で,巻取速度を減速する必要は,「スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」を用いた場合に生ずるものである。
他方,引用発明のブレーキは,審決が認定するとおり,「スクリーン巻取り初期段階から最終段階までの間,一貫して巻取筒の加速を抑圧するように減速させる事によって,一定の巻取速度でのスクリーンの巻取りを実現するもの」であり,その「粘性ダンパ23は,・・・ブレーキとして作用するのであり,スクリーンSの急速な巻上げに起因する巻終わりの衝撃力や騒音等の発生を防止し各部材の損傷や静粛な雰囲気,情緒の破壊を防ぎ,スクリーンSの静粛且つ緩調な巻上げを可能とする」という作用効果を奏するから,これをもって,上記「スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」ということができない。従って、引用発明において,「スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにする」ことが必要となるものとは認められず,そうであれば,当業者が,あえて,そのような構成を採用して引用発明に適用することが,設計事項であるとも,容易であるともいえないから,相違点についての審決の判断は誤りである。

(5) 検討
審決は、相違点の判断において、引用発明のブレーキを「スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」であると解釈し、これに基づき相違点は設計的事項であると判断した。しかし、上記解釈は、判決が指摘したように、引用例の(イ)、(ホ)の記載と食い違っており、誤りである。
本件のように、審決の事実認定部分における引用発明の認定は誤でなくても、相違点の判断において、引用発明を誤った方向に解釈し直して拒絶してくることもあるので、出願人としては注意すべきである。

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