知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.25

訂正(補正)の新基準(ソルダーレジスト事件大合議判決)に基づき緩やかに訂正を認めた件

知財高裁平成22年7月15日判決 平成22年(行ケ)10019号

特許事務スタッフ

1.訂正事項a(下線が訂正部分)
【請求項1】継鉄部と,外周側が開放され内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部とに分割されるとともに,前記歯部にコイルが巻装され,かつ,前記継鉄部と歯部とが,プレス抜きの後積層されて,一体的に構成されるステータコアと,前記ステータコアをインサート成形した前記絶縁性樹脂からなるフレームと,前記フレームに嵌合固定するブラケットとを有するモールドモータにおいて,
前記コイルの巻装形状を,コイルエンドの軸方向端面の外周側を平坦面にするとともに,コイルエンドの軸方向端面の内周側にテーパを形成した台形状とし,かつ,前記フレームのコイルエンドの軸方向端部の平坦面と接する部分の厚みを薄くし,前記コイルエンドと前記ブラケットとを,肉厚のきわめて薄い樹脂製のフレームからなる細隙を介して対向させたことを特徴とするモールドモータ。

2.特許明細書及び図面の記載
【図2】本発明の実施例

特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

1 ステータコア 6 フレーム 9 ボビン 10 コイル

【図4】従来例

特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

 従来のモールドモータを図4に示す。1はステータコアで、継鉄部2と歯部3に分割され、それぞれが、プレス抜きの後積層され、一体的に構成されている。

3.審決理由の要点
 本件特許明細書の記載によると,ステータコアが継鉄部2と歯部3に分割されることは記載されているものの,歯部3が個々に分割されることについては記載がなく,一体的に構成されるステータコアにおいて,一の歯部3の内周側が絶縁性樹脂を介して隣接する歯部3の内周側と連結されることを示唆するものではない。
 また,本件特許明細書の【図2】又は【図4】において,一の歯部3のステータコア内周に沿う部分と隣接する歯部3のステータコア内周に沿う部分との関係は明確ではなく,一の歯部3のステータコア内周に沿う部分と隣接する歯部3のステータコア内周に沿う部分との間に絶縁性樹脂からなるフレーム6と同じハッチングの部分が介在しているとまでは読み取ることができないから,一体的に構成されるステータコアにおいて,一の歯部3の内周側が絶縁性樹脂を介して隣接する歯部3の内周側と連結されることが記載されているとはいえない。 請求人(原告)が主張するように,「歯部の内周側が絶縁性樹脂を介して連結されること」が周知の技術であるとしても,モータのステータコアにおいて,一の歯部の内周側が隣接する歯部の内周側と直接に連結されることも本件特許出願の出願前に周知の技術であるといえるから,本件発明において「歯部の内周側が絶縁性樹脂を介して連結されること」が自明の事項であるとはいえない。
 以上からすると,訂正事項aにより訂正された「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」については,本件特許明細書に記載されているとはいえず,また,本件特許明細書の記載から自明な事項であるとはいえないから,訂正事項aが,本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。したがって,訂正事項aは,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであるとは認められない。

4.判決理由の要点
 本件訂正前の請求項1記載の発明における「内周側が連結された歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」と「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」との両方を含んでいたことについて,当事者間に争いはない。
 「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決 ソルダーレジスト事件大合議判決参照)。
 本件訂正前の本件特許明細書の記載中の本件発明の作用・効果等の記載に照らすならば,@本件発明を特徴づけている技術的構成は,請求項1中の「継鉄部と,外周側が開放され内周側が連結された歯部・・・前記フレームに嵌合固定するブラケットとを有するモールドモータにおいて」までの部分にあるのではなく,むしろ,これに続いて記載されている「前記コイルの巻装形状を,・・・前記コイルエンドと前記ブラケットとを,肉厚のきわめて薄い樹脂製のフレームからなる細隙を介して対向させたことを特徴とするモールドモータ。」との部分にあると解されるところ,本件特許明細書の「内周側が連結された歯部」との構成は,前段部分に記載されていること,Aそして,「歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」のみに限定された範囲のものであったとしても,「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」を含む範囲のものであったとしても,本件発明の歯部間におけるコイルのスペースファクタを高くし,コイルの冷却を良好にすることにより,モータ特性を向上させ,モータの全長を短くするとの作用効果との関係においては,何らかの影響を及ぼすものとはいえない。
 被告は,本件において,「絶縁性樹脂を介して連結された歯部」とする訂正を認めると,本件特許明細書の記載から予測できない範囲に特許権の効力が及ぶことになり,第三者に不測の損害を与えかねないと主張する。しかし,被告は,第三者に不測の損害を与えかねないような新たな技術的事項の内容を,何ら明らかにしていないので,被告の主張は採用できない。 また,審決では,本件訂正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当すると判断しており,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」も本件訂正前の請求項1記載の発明に含まれることを認めているのであって,本件においては,本件訂正がされたからといって,第三者に不測の損害を与える可能性のある新たな技術的事項が付加されたことを,想定することは困難である。
 したがって,「内周側が連結された歯部」を「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」とした本件訂正は,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。

5.検討
 ソルダーレジスト事件大合議判決は、訂正の要件として、特許法126条2項が定める「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」について、新たな判断基準を示した(下記参照)。 『明細書又は図面に記載した事項』とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。 旧基準は「特許(補正は当初)明細書等の記載から自明な事項」であった。本件の審決は旧基準で判断して訂正は不適法としたが、本判決は、新基準で判断して訂正は適法と判断した。そこで新旧基準の異同について検討する。
 新基準を判示したソルダーレジスト事件大合議判決を受けて、特許庁は平成22年6月に補正の新規事項の審査基準を改定した。それによれば、基本的な考え方は新基準に依拠し、具体的な判断手法は旧基準によるとある。おそらく両基準は実質的に同じと考えたのであろう。
 しかし、筆者は、新基準の方が緩やかであると考える。何故なら、訂正(または補正)が不適法であると言うためには、旧基準では、特許(補正は当初)明細書等の記載から自明な事項でないと言えば済んだが、新基準では、それだけでは足りず、新たな技術的事項として何が導入されたかを特定する必要があるので、不適法とするハードルが高くなっているのである。
 本判決は、審決を取り消す理由の一つとして、第三者に不測の損害を与える新たな技術的事項の内容を,審決が何ら明らかにしていない点を挙げている。

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