知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.18

除くクレームを記載不備とした判決

知財高裁平成21年9月30日判決 平成21年(行ケ)10041号

特許事務スタッフ

1.概要
 除くクレームを使って「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」から「研磨しうる弾性体」を除いた補正後の発明は、下記理由により記載不備であると判断した。一般的な固体の物質は,いずれも研磨しうる材料であり,変形量が少ないとしても弾性を有しているから,「研磨しうる弾性体」に含まれる。クレームの材料から「一般的な固体の物質」を除いた後に,どのような性質のものが残るかを想定することは困難である。

2.特許庁における手続
特許出願→最後の拒絶理由→手続補正(本件補正)→補正却下の決定(特許法36条6項1、2号違反により、独立特許要件を欠く)・拒絶査定→不服審判請求・手続補正(本件補正と同内容)→拒絶審決(進歩性欠如・補正却下決定は正しい)

3.本願発明
(1)発明の詳細な説明・図面
本発明の課題は、カッピング現象(凸部の周辺の厚さが凸部の中央部に比べて厚くなる)が生じにくい、液晶表示部の配向膜印刷用樹脂凸版を提供することにある。
1:樹脂凸版本体、2:ベースフィルム、3:感圧性接着剤層、4:金属板又は合成樹脂板

特許事務所 大阪 大槻国際特許事務所

(2)本件補正後クレーム(下線は補正部分)
 【請求項1】液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く 該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
 但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。

4.審決理由の要点(不服2005−4062)
(1)進歩性の判断
 本件補正後の発明は、特公平3−74380号公報および周知技術に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許を受けることができない。

(2)審査において特許法36条6項1、2号違反により、独立特許要件を欠くとして本件補正を却下した点に誤りはない。
 一般的に固体の無機物、固体の有機物又は無機物及び有機物からなる固体の物質は、研磨しうる材料であるし、また変形量は少なくとも弾性を有しているから、「研磨しうる弾性体」に含まれる。
 したがって、「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」が「研磨しうる弾性体ではない」との特定により、一般的な固体の物質(一般的な金属板又は一般的な合成樹脂板も)が除かれることになるので、本件特許請求の範囲の「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」に何が残るのか明確でない。
 本件明細書及び図面を参酌しても、「研磨しうる弾性体」は定義されておらず、明確でない。
 上記のとおり、本件特許請求の範囲からも、また本件明細書及び図面を参酌してもなお、「研磨しうる弾性体」を除いたものが、どのようなものであるか特定できないから、本件特許請求の範囲の記載は不明確であり、発明の詳細な説明には、その裏付けもなく、特許法36条6項1,2号に規定する要件を満たしていない。

5.原告主張の審決取消事由(特許法第36条6項1,2号に関する部分のみ)
 本願補正発明は,いわゆる除くクレームであり,除くクレームにおいて,引用発明を除くために挿入された用語は,引用発明の記載された特許公報等で使用されたとおりの内容のものと理解すべきである。知的財産高等裁判所平成20年5月30日判決(平成18年(行ケ)第10563号)が,「本件各訂正は,先願発明と同一であるとして特許が無効とされることを回避するために,先願発明と同一の部分を除外することを内容とする訂正であるから,本件各訂正における『TEPIC』は,先願明細書の実施例2に記載された『TEPIC』を指すものであると認められる。」と判示したが,同趣旨を述べたものといえる。
 そうすると,本願補正発明の「研磨しうる弾性体」の語は,特公平3−74380号(甲7)記載の発明を除くために挿入されたものであるから,甲7の特許請求の範囲に記載された「研磨しうる弾性体」を意味するものであり,その意味は明確であり,本願補正発明にいう「研磨しうる弾性体」でない「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」の意味も,明確である。したがって,審決の判断は誤りである。

6.判決理由の要点(下線は筆者記入)
 以下の理由より請求を棄却した。
(1) 研磨しうる弾性体の意味
 一般的な辞典(広辞苑、機械工学事典)の記載を参酌すると,本件補正後の請求項1及び本願補正明細書に記載されている金属板,合成樹脂板は,いずれも研磨しうる材料であり,変形量が少ないとしても弾性を有しているから,「研磨しうる弾性体」に含まれるし,金属板及び合成樹脂板に限られず,有機物又は無機物からなる一般的な固体の物質は,いずれも研磨しうる材料であり,変形量が少ないとしても弾性を有しているから,「研磨しうる弾性体」に含まれる。
 「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」から「研磨しうる弾性体」即ち「一般的な固体の物質」を除いた後に,どのような性質のものが残るかを想定することは困難である。
 したがって,本願補正発明の「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」の意味は明確でない。そして,「研磨しうる弾性体」について,本件補正後の請求項1,本願補正明細書に定義や説明の記載はないし,「研磨しうる弾性体」でない「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」のいずれについても,本件補正後の請求項1,本願補正明細書に定義や説明の記載はない。
 そうすると,本願補正発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法36条6項1号を充足せず,また,特許を受けようとする発明が明確でないから,同項2号を充足しない。

(2)原告の主張について
 本願補正発明が特許法36条6項1,2号の要件を充足するか否かは,本件補正後の特許請求の範囲の記載及び本願補正明細書に基づいて判断されるべきである。原告(出願人)が,本願補正発明から甲7記載の発明を除く意図で,「研磨しうる弾性体」の語を用いたものであったとしても,本願補正発明における,「研磨しうる弾性体」の語が甲7記載のとおりの技術内容を有するものと理解すべき根拠はない。
 仮に甲7を参照したとしても,「研磨しうる弾性体」との文言の意味が明確であるとはいえない。すなわち,甲7の特許請求の範囲の請求項1では,「研磨しうる弾性体」は,定義されることも限定されることもなく用いられている。

7.検討
 ○○を除くという補正をクレームに加える場合、○○を除いた後に残るものが出願当初の明細書等に記載されていないと新規事項の追加になるのでないかという問題については、知財高裁平成20年5月30日判決(平成18年(行ケ)第10563号)が、新たな技術的事項を導入しないものである限り新規事項の追加に該当しないと判断している。
 しかし、新規事項の追加に該当しないとしても、○○を除いた後にどのようなものが残るのか想定できないときは、発明が不明確となるので特許法36条6項2号違反になるし、また、補正後の発明が発明の詳細な説明に記載したものとは言えないから,特許法36条6項1号違反にもなる。実務上注意すべき点である。
 本判決は、そのようなケースである。本件補正は、金属板又は合成樹脂板から「研磨しうる弾性体」を除くものであるが、一般的な固体物質が研磨しうる弾性体であることを考慮すると、研磨しうる弾性体を除いた後に,どのような性質のものが残るかを想定することは困難である。

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