知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.17

拒絶査定の理由に周知技術を追加して進歩性欠如とした審決が、特許法159条2項で準用する同法50条に違反するとして取り消された事例

知財高裁平成21年9月16日判決 平成20年(行ケ)10433号

特許事務スタッフ

1.特許出願から審決まで
(1)手続の概要
特許出願→拒絶理由通知(引例1,引例2,引例3)→意見書・手続補正書→拒絶査定→不服審判請求・手続補正書→審決(引例1、周知技術1、周知技術2)

(2)拒絶査定の理由
イ)拒絶理由通知
触媒の成分,構成については,引用文献1又は2に示されている。還元時間は,還元(所謂リッチスパイク)する頻度等に関係することであり,当業者が適宜決定しうることにすぎない。また,引用文献3には,リッチ状態の深さを13.0乃至14.7(14.6)とする点が示されている。
ロ)拒絶査定の備考欄
NOx浄化触媒として,NOxを触媒表面への吸着するものは,本願出願前において周知である。所謂リッチスパイクの頻度及びそのリッチ状態の深さは,当業者が,燃費,浄化性能等を考慮し,実験等を繰り返すことにより最適値を得ることができるものである。

(3)出願人の主張(下線は筆者記入)
イ)意見書
本願発明は,「NOxは主として触媒表面への吸着」するものである点で異なる。
引用例1〜引用例3に記載されている各発明からは,本願の発明の前記作用効果である『リーン排ガス中の‥‥NOxの捕捉は,主として触媒表面への吸着により行われ,吸着捕捉されたNOxは,・・・表面拡散過程を含むのみで,物質移動抵抗の大きい触媒バルク内の移動過程を含まず,リッチシフトを深くする必要はなく,浅いリッチシフトで十分であるために,リッチシフトによる燃費の低下は小さくなる』は,期待できない。
ロ)審判請求の理由
本願発明は,『排ガスがリーンのときに排ガス中のNOxを表面に吸着し,排ガスがストイキもしくはリッチのとき吸着したNOxをN2に還元する「NOx浄化触媒」』に,その発明の特徴構成を有する。審査官の認定の如く,『NOx浄化触媒として,NOxを触媒表面へ吸着するものは,‥‥本願の出願前において周知である』ならば,証拠を示して認定するのが,拒絶査定の常道である。

(4)審決理由の要点
本願発明と引用例1との相違点1:本願発明においては,排ガス中のNOxをNOx浄化触媒の表面に吸着しているのに対して,引用発明においては,NOxの吸着がどこで行われているか明らかでない点。
判断:「排ガスがリーンのときに,NOx浄化触媒としてNOxを触媒表面へ吸着するものは周知(周知例1及び周知例2参照。以下「周知技術1」という。)であるから,相違点1に係る本願発明の発明特定事項は周知である。
(相違点2およびその判断は省略)

2. 判決理由の要点(下線は筆者記入)
(1)拒絶査定と審決とでは,「表面に吸着」する点に関し,同一性のある解釈をしていたとは認められず,むしろ,拒絶査定及び審決における各説示の文言等に照らし,前者はこれを「表面への吸着」と解釈し,後者は表面のみならず「吸収」を含む現象と解釈していることが認められる。したがって,審決は,拒絶査定の理由と異なる理由に基づいて判断した。

(2)周知技術1及び2が著名な発明として周知であるとしても,周知技術であるというだけで,拒絶理由に摘示されていなくとも,同法29条1,2項の引用発明として用いることができるといえないことは,同法29条1,2項及び50条の解釈上明らかである。確かに,拒絶理由に摘示されていない周知技術であっても,例外的に同法29条2項の容易想到性の認定判断の中で許容されることがあるが,それは,拒絶理由を構成する引用発明の認定上の微修整や,容易性の判断の過程で補助的に用いる場合,ないし関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合に限られるのであって,周知技術でありさえすれば,拒絶理由に摘示されていなくても当然に引用できるわけではない。被告の主張する周知技術は,著名であり,多くの関係者に知れ渡っていることが想像されるが,本件の容易想到性の認定判断の手続で重要な役割を果たすものであることにかんがみれば,単なる引用発明の認定上の微修整,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合ないし当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合にあたるということはできないから,本件において,容易想到性を肯定する判断要素になり得ない。

3.検討
 拒絶査定の理由に周知技術を追加して進歩性欠如を理由とする拒絶の審決をすることが、特許法159条2項で準用する同法50条に違反するか否かは微妙な問題である。
 周知技術はその技術分野において一般的に知られ,当業者であれば当然知っているべき技術にすぎないから,審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知事項を加えて進歩性がないとする審決をした場合でも,原則的には,新たな拒絶理由には当たらないとする判決がある(例えば,東京高判平成4年5月26日、平成2年(行ケ)228号)。本件の審決もこの立場に立脚している。
 しかし、本判決は、周知技術を追加しても新たな拒絶理由を構成しないのは、イ)引用発明の認定上の微修整に用いる場合、ロ)容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合、ハ)技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合、等の例外的場合に限られるとした(原則と例外を逆転させた)。その上で、本件の場合、周知技術1が容易想到性判断における重要な役割を果たしているから、イ)〜ハ)に該当しないと判断した。
 最近の審決取消訴訟判決は、出願人が重要な技術的意義を有し容易想到性判断における重要な論点としている相違点に対し、拒絶理由に摘示されていない周知技術を用いることは、特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると判断している。例えば、木質合成粉の製造方法事件判決(平成18年12月20日判決 平成17年(行ケ)10395号)、シート張力調整方法事件判決(平成18年12月20日判決 平成18年(行ケ)10102号)、取引可否通知方法事件判決(平成19年4月26日 平成18年(行ケ)10281号)、等である。
 本判決は、この流れに沿ったものと言える。

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